ちかこ@目白・作

■『千里姫の冒険』(2)


(1)からつづく

「お、おめえ、女にしちゃ背がでけぇな? どれくらいでぇ?」
「162センチね」
「な、なんだってぃ?」
「だからー、1メートル62センチたい!」
「ま、またわけのわからねーことをほざきやがって…。五尺五寸ぐれぇはあるんじゃねーか?」
「ねえ、1尺って何センチ?」
「センチって、なんでぃ?」
「ああ、もうわけがわからんとね!!」
「そりゃーこっちの台詞でぃ! おめえの言ってるこたぁ、わけがわかんねえ やぁ。…やい、べらぼーめぃ、いくぞぃ!」
「どこへ?」
「番屋だ、大番屋! 家出するたぁ、しょうがねー娘だ」
「……おじさんの名前、うちまだ聞いとらん。…神田明神下の平次親分ね?  そいとも、人形町の佐七親分ね? そいとも、うちんキライな箕輪町の万七親分ねぇ?」
「お、おじさんじゃねーやい! にーさんか親分と呼びねえ!」
「おにーさん……っていうには、たいっぎゃ薹が立っとっと」
「うるせえやい! ……おれの名めえか? おれぁ、この町内じゃ知らんもんはいねえ、泣く子も黙る、へへっ、田代の靖吉ってぇ十手持ちでぇ」 「じぇ〜んじぇん、聞いたこともなかぁ」
「お、おめえ、おれに喧嘩売ってんのか!?」
「ねえねえ、靖吉親分、今年は何年ねぇ?」
「おい、大丈夫かい? 今年ゃおめえ、寛政の三年に決まってるじゃねーか」
「寛政3年って、西暦になおすと…。ええと…。あ〜、忘れた! 勉強はできるうちに、しておいたほうがよかね〜。こげなときに気づいても、遅いわ!」
「何ひとりで、ぶつぶつ言ってるんでぃ?」
「…これ、ホンモノね?」
「お、おい、十手を返せ!」
「これ、かわりに上げるけん」
「こ、こりゃ、何でぇ?」
「マイクたい」
「…マイコってぇ、何でぇ?」
「そいで、歌唄うと、大きく響きよっていい音ね〜」
「あ、あーあーあー、…トテチントンシャン、♪梅ぇはぁ〜咲いたか〜ぁ、桜ぁはまだかいな〜っと、…ぜんぜん変わらねえじゃねーかよ」
「スイッチが切れとる」
「スイッチョって何でえ? 虫ころかぁ? …お、おめえ、おれをおちょくってんのかぁ?」
「こげな、わけのわからんおじさん相手にしてても、時間がもったいなかぁ! そいより、うち、お腹へったと!」
「ぬ、ぬかしやがったな、このやろう! 小娘だからと思って、下手に出てりぁいい気になりやがって! 十手を返しやがれ!!」
「うちに向かって、そげん乱暴な口きくんじゃなかねー!!」

「痛っ!! い、痛てぇ〜! …い、いきなり十手で頭たたきやがって…。お、 おめえさんのほうが、よっぽど乱暴だぜー。痛ってえ〜〜〜!」 「ゴチャゴチャ言わんと、早うご飯食べられるとこに連れて行きんしゃい!  食後には、ハーティーのパフェだけんね。…っていっても、このぶんだと、たぶんなかねぇ〜。…食後には、あんみつでよかぁ! …ほれほれ、早う歩かん と、十手がどこぞへ飛んで行きよる〜。ピュ〜〜〜ッ」
「いてて、…あっ、待ちやがれ〜! このやろう、おめえ、御上(おかみ)か ら預かった十手を…! ち、ちっくしょう、てえげえ可愛いらしい顔してると 思ったら、とんでもねぇハネッ返りだぜ」
「ほれほれ〜、靖吉親分、遅い遅〜い! ピュ〜〜〜ッ」
「図体もでけえし、力も強え〜し、駆け足も早え〜。それに、ぜんぜん十手持 ちを怖がらねぇ。…いててて、待ちやがれー! ……ね、ねえ、でえじな十手 が…。て、てーへんだてーへんだ、…待っておくんなさい、姐さん!」
「姐さんじゃなかぁ! うちは千里ねえ!! 」
「お、おチサちゃん、ねえ、待っておくんなさい!」
「おチサちゃんじゃなかぁ! うちは、千里ちゃんねー! ほんなこつ、レストランは、どこね〜!??」
「…千里ちゃ〜ん! あっしの十手を返しておくんなさいよう!!」

春の風が吹きわたる、よく晴れた江戸の町は、少しほこりっぽいのを除けば、 今の東京とは異なり、どこまでも澄み切った青空が広がっていました。その下を駆けて行く町娘と岡っ引の2人を、江戸の町衆が不思議そうな顔をしながら振り返ります。

両国広小路の外れには、まだ山頂に白さを残した大きな富士山が、足柄や箱根の山々を根に、どっしりとそのすそ野を広げていました

(3)へつづく